わたしは昆虫標本を作るのですが、虫が多く発生する夏は色々なものが腐りやすく標本にする虫も例外ではありません。
当然、標本にする虫は死んでいますから腐ります。
とにかく腐らせない為に標本は早く乾燥させる必要があります。
風通しの良い場所で乾燥させるのですが、独特の腐敗臭が香り始めます。
夏場に自然乾燥させると乾燥するより早く腐り腐敗臭が漂います。
特に腐りやすく腐敗臭のひどい虫は、カブトムシやコガネムシなどの甲虫類です。
夏休みに飼っていたカブトムシが死んでしまって、角をつまんで持ち上げると関節が伸びてダラダラ・ブラブラした状態になっていることがあります。
この状態は、すでに腐り始めています。
そしてすぐに悪臭を放ちます。
腐敗とは腐ることです。
では、腐るとはどういうことなのでしょう。
有機物が微生物の作用によって変質する現象を腐敗するといいます。
有機物は腐る。有機物とは何か…? 腐るか腐らないかで判断すれば有機物はわかります。
まず、私達が食べる物は腐りますから有機物です。
動物・植物も死んでしまえばやがて腐りますから有機物です。
木製の机や椅子も環境によって時間が経てば腐ります。
しかし、机や椅子に使われている鉄などの金属は錆びることはあっても腐ることはありません。
錆びるとは酸化という化学反応ですから腐っているわけではありません。
だから有機物ではありません。
じゃあ腐らないものとは何なのか?
腐らない物は無機物です。
金属や陶器・ガラスも腐りませんから無機物です。
では、水は…?よく水が腐ったと言いますが、実際には水が腐ったのではなく水の中にいる微生物が死んで腐っているのです。
ですから水は腐らない無機物です。
この腐らない無機物の水が腐るためには大変重要となります。
先ほどの机や椅子はなぜ腐りにくいのでしょうか。
それは水分が少ないからです。
木材の時に十分に乾燥してから加工します。(最近は防腐処理がされていたり防虫処理もされていたりします。)
そして、家の中で使用しますから湿気も高くありません。
しかし、机や椅子を外に置いておくとどうでしょう、雨が当たり足の底は土に触れて乾燥することなく湿気ったままで次第に腐り始めます。
つまり、腐敗・腐るためには水が必要です。
水がないと腐敗微生物は増殖できません。
わたしたちは、食べ物を保存するのに冷蔵庫を使います。
なぜ冷蔵庫に入れるのか…?
食品が傷むのを防ぐため、つまり腐らないようにするためです。
冷やすことで腐りにくくなるのです。なぜか、腐敗微生物が増殖するための適温があります。
一般的に20~40℃で腐敗微生物は活発に活動し増殖します。
冷蔵庫は食べ物を低温にすることで腐敗微生物の活動を低下させて腐るのを遅くしているのです。
逆に加熱により高温にすると腐敗微生物は死んでしまいます。加熱調理は熱により微生物や菌を死滅させています。
缶詰・ビン詰は熱処理と密閉によって微生物や菌を死滅させ新たな微生物や菌の侵入を防ぎ、空気を無くすことで長期保存ができる方法です。
微生物や菌によっては低温でも活動が活発なものや、100℃でも死なないものなど様々です。
しかし、適した温度でないと腐敗微生物は増殖できません。
腐敗微生物の増殖に空気は必要なのでしょうか…?
先ほどの温度もそうですが腐敗微生物によって適温が様々だったように、増殖に 空気→酸素 が必要なのかも様々です。
腐敗微生物の酸素の必要性は大きく4つのグループにわかれます。
①酸素がないと生きられない。
②少しの酸素でも生きられる。
③酸素があってもなくても生きられる。
④酸素があると生きられない。
真空包装や、包装された食品に脱酸素剤を入れることによって増殖を抑えられるのは ”①酸素がないと生きられない。” 微生物や細菌になります。
それ以外の3つのグループにはあまり効果がありません。
むしろ、完全に酸素を除去した場合は”④酸素があると生きられない。” グループの 微生物や細菌は最適な環境となり増殖をします。
腐敗・腐るためには、
- 腐敗微生物があること。
- 水分があること。
- 適温であること。3つが大きな条件となります。(酸素も条件としてはありますが…。)
これらの条件をコントロールすることで腐敗を防いだり、腐敗の進行を遅くすることができます。
レトルト食品は、空気を抜いた密閉された袋(真空パック)に食品を入れる事で酸素を除去し、その袋のまま加熱処理・加熱調理することで袋の中の腐敗微生物を殺菌します。
スーパーに買い物に行くと、カレー・牛丼・親子丼のレトルト食品や、真空パックされた色々な食品が売られています。
それらは、この方法で腐敗を防止した商品です。
保存食としてもとても役に立っています。
フリーズドライ(真空冷凍乾燥)された食品は、急速に冷凍することで腐敗微生物の増殖を防ぎ、高真空の状態で凍った水分を氷のまま蒸発(昇華)させて乾燥した、究極の腐りにくい食品です。
最も注視する点は乾燥方法が昇華によって行われていることです。
通常は氷(個体)→水(液体)→水蒸気(気体)と状態が変化します。
水が熱によって蒸発し水蒸気となって乾燥しますが、低温と真空圧の環境下では氷から蒸発が始まり乾燥します。
個体から気体へと状態が変化することを昇華といいます。
防虫剤として使用される樟脳も、ドライアイスも昇華によって気体に変化しています。
昆虫標本を腐らせない為に、シリカゲルを入れたタッパーに虫を入れ密閉することで虫の水分をシリカゲルが吸収して乾燥が促進されます。
また、腐敗微生物は20~40℃で活発に活動し増殖しますから、気温の高い季節は冷蔵庫にタッパーごと入れて腐敗微生物の活動を抑えながら乾燥させます。
長期間の保存には冷凍庫を使用します。
冷凍庫で長く保存すると、凍った水分が氷のまま少しづつ蒸発(昇華)をして大気圧の状態でもフリーズドライ(真空冷凍乾燥)されたようになります。
究極の腐りにくい状態になります。
使用したシリカゲルの再生方法。
シリカゲルを再生する方法
コメントを残す